大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和39年(行ナ)159号 判決

原告

フアルベンフアブリケン・バイエル・アクチエンゲゼルシヤフト

被告

特許庁長官

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用(参加によって生じたものを含む。)は原告らの負担とする。

事実

第一  請求の趣旨

原告ら訴訟代理人は、「昭和三十七年審判第一七九一号事件について、特許庁が昭和三十九年九月十四日した審決を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求めると申し立てた。

第二  請求の原因

原告ら訴訟代理人は請求の原因として、次のように述べた。

一  原告らは、特許番号第二九九六六九号、昭和三十七年六月二十六日登録発明の名称「あられ菓子の製造方法」、発明の内容、別添特許公報(特許出願公告昭三五ー一五八三一)記載のとおりの特許権の共有者であるが、願書に添附した明細書に誤記のあることを発見したので、昭和三十七年八月十八日特許庁に対し、右誤記の訂正を目的として本件特許明細書中の「特許請求の範囲」および「発明の詳細なる説明」の各項における「華氏3度乃至5度」(以下補助参加人の主張の場合を除き、「3乃至5度Fと表示する。)を、「摂氏3度乃至5度」(以下3乃至5度Cと表示する。)に、「冷凍」を「冷蔵」に、「発明の詳細なる説明」の項中の実施例における「餅40kg」を「餅4kg」に、明細書の訂正をすることについての審判を請求したところ(昭和三十七年審判第七九一号)、特許庁は昭和三十九年九月十四日右審判の請求は成り立たない旨の審決をし、その謄本は同年十一月一日原告らに送達された。

二  右審決は「本件特許請求の範囲において「3乃至5度F」を「3乃至5度C」に、「冷凍」を「冷蔵」に訂正することは、「「3乃至5度F」において冷蔵して得られる冷蔵餅」(以下、前者とする。)を「「3乃至5度C」において得られる冷蔵餅」(以下後者とする。)と訂正することであつて、この訂正において「3乃至5度F」を「3乃至5度C」に訂正することは、「F」を「C」に変更することであるが、「F」を「C」に換算すると「1乃至5度F」は約「マイナス16.1度乃至マイナス15度C」に相当し、これを「3乃至5度C」と比較するとその間に著しい温度差を生じ、その冷蔵効果についても「3乃至5度F」に冷蔵した餅は凍結されるに対して「3乃至5度C」に冷蔵した餅は凍結されない結果を生ずる。また、そのため前者における「冷凍餅」は凍結状態になった餅を指し、後者における冷蔵餅は凍結されないで貯蔵した餅を意味することになることも明白である。

そして本件特許請求の範囲には、前者が後者を意味する事項については何等記載するところがないから、前者を後者に訂正することは、上記のように冷蔵温度とその温度の餅に与える作用効果には著しい差異を生じ、本件特許請求の範囲を実質的に変更するものであることは,明白のことといわねばならない。したがつて原告請求のように訂正することは、特許法第百二十六条第二項の規定に違反する。また上述のように特許請求の範囲が訂正できない以上、これと同様の訂正を残余の明細書中に行なうことも、その訂正は許可できない。次に実施例における「餅40kg」を「餅4kg」に訂正することは、同法同条第一項の各号のいずれにも該当しないものと認める」としている。

三  しかしながら、右審決には、「3乃至5度F」を「3乃至5度C」に訂正することができないとした点に、次のような違法がある。元来特許発明は一定の目的があつて、それを達成する技術手段の構想が「特許請求の範囲」に表現され、その記載において意義不明のときは、明細書の全文によつて解釈すべきものであることは今日の定説である。しかるに審決の判断は、本件明細書の全文を検討することなく、安易に「特許請求の範囲」中に「3乃至5度F」と記載されている事実のみを捉え、「発明の詳細なる説明」の項に記載された事項を全く無視し、「3乃至5度F」を「3乃至5度C」に誤記の訂正をすることをもつて、実質上特許請求の範囲を変更するものとする誤りをおかしている。

(1) 本件特許発明の要旨とするところは、単に工程中の冷却温度のみを主要素とするものではなく、あくまで三工程査作の結合を特徴とするものであることは「特許請求の範囲」の記載のとおりである。すなわち、本件特許発明は、その明細書の冒頭に「長期間軟化黴生することなく軽く然も風味と栄養を具有するあられ菓子を提供しようとするものであつて」、とあり、さらに全体処理作用の効果として「本製品は組織は均等緻密にして且硬化変形亀裂を生ずることなく然も軽く焼き上げられ、保存性と食用に好達し栄養豊富にして風味に富む焼菓子を得たものである」(別添特許公報(以下、公報と略称する。)第一頁右欄九行目から十二行目まで参照)と冒頭掲記の目的に適合した製品の諸性状を説明している。そして右のような製品を製造するための第一工程として「特許請求の範囲」に「常法により搗き上げた餅生地を規定の容器に充★して約三日間3乃至5度Fの冷気中に冷蔵する」と表現されている部分を「発明の詳細なる説明」の項の全文と対比して、Fなる温度記号が本件発明を遂行するに適切なものであるかどうかを詳細に観察するとまず(イ)「冷気中に約七十時間冷蔵することにより餅生地の組織は全体が均一に安定するとともに緻密となり、且つ耐寒性を具有するに至り、従つて寒気による硬化及び餅肌に亀裂を生じないようになり」(公報第一頁左欄三十行目から三十四行目まで参照)とあり、このことは、後記のとおり、餅生地を凍結せしめるものではないことを意味し、さらに(ロ)「予め約3乃至5度Fに於て冷蔵することは生地組織を適度に緻密化するためであつて、従つてその冷蔵温度において上記以上の温度の場合は生地組織に締りを欠き且つ焼成時の膨みを阻害するとともに雑菌類が侵入し易く又上記温度以下の場合は組織が冷結して水分が温度に除かれるので截断し悪く且つ組織が破壊し易くなるとともに焼成時の膨み困難となるので本発明所期の効果を得られないものである」(公報第一頁右欄十三行目から二十行目まで参照)と記載されていて、ここにいう「生地組織に締りを欠き」とは弛緩粘稠性の組織を意味するものであり、また「組織が冷結し」とは凍結を意味するものなのである。右各記載の目的を達成し上述の性質を有する製品を製造するための技術的手段の構想が本件明細書における「特許請求の範囲」なのである。次に「特許請求の範囲」の項のほか、明細書の全体にわたり温度の表示がFでは、明細書の前記引用個所に記載する効果もあがらず、したがつて発明の目的が全然達成されない理由を述べる。

(イ) 截断工程においては「3乃至5度C」で冷蔵した場合には明細書の「発明の詳細なる説明」の項に記したように餅生地は幾分β化して組織は適度に緻密化し、通常の米菓用截断機により程よく截断することができるのに反し、「3乃至5度F」で冷蔵した場合には餅生地は硬くしかも脆くて通常の截断機ではすぐには截断することができず、各種の形状に截断するにはある程度解凍しなければならないが解凍が進むとその餅生地の表面は水餅の状態となり、粘着して截断が困難となり、次の乾燥の操作が順調にいかなくなる。

(ロ) 截断面を比較した場合「3乃至5度C」で冷蔵した場合に餅の断面は飴色を呈し、緻密均一に硬化しているのに対し「3乃至5度F」で冷蔵した場合には截断面は白色で截断の際に亀裂を生じぼろぼろした脆い状態となり、内部にいわゆる「ス」が入つていて、普通の冷蔵の効果は全くみられないばかりでなく截断も不可能である。

(ハ) 冷蔵截断した餅の細片を通風乾燥する工程においては「3乃至5度F」で冷蔵した場合の生地は「3乃至5度C」で冷蔵した場合の生地に比較して白味を帯びていて不透明であり、また截断時にみられた「ス」が残つていて硬さも弱く一部くずれて白色の粉末になつてしまう。

(二)乾燥した餅の細片を赤外線で加熱し、続いて電熱で焼き上げる工程において「3乃至5度F」に冷蔵した場合は「3乃至5度C」の場合に比してほとんど膨化せず凝結した状態に焼き上り、内芯が残らない程度に焼成すると表面は黒く焦げてしまい、したがつて味付けした製品は歯触りが固く非常にこわれやすく脆い製品となる。

右に詳述した事実は学理的にも証明されている。すなわち生澱粉は水分と温度とによつて膨潤糊化し、ミセル構造が乱れてα澱粉となり、これが冷却されるとミセル構造が規則性に変つてβ澱粉に戻る老化現象を起すが、この老化現象は水分三〇~六〇%温度0度Cの時最も起り易く餅の場合冬期において老化が著しい。さらにX線回折像から見て温度二~三度Cの時に最も老化し易く零下の低温度や、高温度では老化し難い。また農林省食糧研究所における製造試験の結果においても、五度Cを用いる場合には本件発明所期の効果が得られるが、「3~5度F」を用いては本件発明の効果は得られないと断定されている。

以上要するに「3乃至5度F」を「3乃至5度C」に誤記訂正することにより、はじめて明細書に記載されているとおり、餅生地が適度に緻密化され、組織が全体的に均一化され、截断し易く組織も破壊されず適当な膨みを有し、「長期間軟化黴生することなく軽く、然も風味と栄養を具有するあられ菓子を提供する」という、明細書冒頭掲記の本件特許発明の目的が達成されるのであつて、「3乃至5度F」で冷却処理を行つたのでは、爾後の截断、乾燥、赤外線照射および焼成を行つても本件特許発明の目的に適合した諸性状を備えた製品は全くできず、かえつて従来の方法による「あられ」製品より粗悪品になつてしまうことは明らかである。

(2)本件に類似した事例につき誤記の訂正を認めた審決例(「特許請求の範囲」の項その他における、「約九十度以上」を「約九百度以上」に訂正することを許可した、昭和三十三年審判第三六二号事件、同じく「特許請求の範囲」の項その他における二個の「cl」のうち一個を「OH」に訂正することを許可した、同年第五一二号事件)が存するが、これらはいずれも明細書の全文の記載から見て、誤記と認めたものであつて、これらの先例から見ても本件審決の判断は違法である。

四  なお特許明細書中「冷凍」を「冷蔵」に、「餅40kg」を「餅4kg」に訂正することに関しては、本訴においては主張しない。

第三  被告の答弁

被告指定代理人は、主文第一項同旨および訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、原告主張の請求原因に対して次のように述べた。

一  原告主張の請求原因一および二の各事実はこれを認める。

二  同三の主張はこれを争う。

本件特許発明の明細書の記載中「特許請求の範囲」および「発明の詳細なる説明」の各項における「3乃至5度F」が「3乃至5度C」の誤りであることは理解できるけれども、本件における右温度符号の訂正は、ただ単に「F」を「C」にするというだけでなく具体的に示された数値をも必然的に著しく変更することになり、明らかに発明の構成要件を改変するものであるからこの誤記の訂正を特許法第百二十六条第二項の規定に違背するものとした審決の判断は適法である。

第四  補助参加人の陳述

補助参加人訴訟代理人は、本件特許発明の出願手続における経過その他につき、事情として次のように述べた。

本件特許の出願人である原告渡辺平吉は、出願に際し、願書添附の明細書においてはすべて「華氏三度乃至五度」と「華氏」なる文字を用いており、本補助参加人ほか五名の申立による特許異議事件の審理においても、申立人から、しばしば、右部分について指摘して釈明を求めたが同原告は何等釈明をなさず、ことさら右部分に関する論点を回避していた。また同原告は、本件特許発明の出願公告後に申立てた訴外有限会社さがのや米菓製作所等を相手方とする証拠保全請求事件における申立書中においても「華氏」なる温度符号を用いていた。これらの事実からすれば、原告の「華氏」なる温度符号の使用は、温度符号を変えた場合の温度が発明の技術的範囲の認定に際して公知技術の範囲に属すると判断されるという見解のもとになされたものと見なさざるを得ないものであるが、審査官は結局右の原告表示の温度符号に基いて特許査定をしたものであり、本件特許発明は冷凍工程において公知技術と著しい差異のある点に新規性を認めて特許されたものと解される。

要するに原告の本訴請求は、被告答弁のとおり、特許権の効力範囲の実質的拡大を企図するもので、棄却さるべきである。

第五  証拠(省略)

理由

一  特許庁における本件訂正審判手続の経緯、原告が本件特許発明の明細書中の「特許請求の範囲」の項その他の個所における「3乃至5度F」の記載を「3乃至5度C」に訂正することほか二点の誤記の訂正を求めたのに対し、本件審決が「3乃至5度F」を「3乃至5度C」に訂正することは、特許法第百二十六条第二項に規定する実質上特許請求の範囲を変更するものであるとして請求を排斥すべきものとしたことについての請求原因第一、二項の事実は、当事者間に争いなく、右訂正を求める部分が原告主張のとおり誤記にかかるものであることは被告の争わないところである。

二  そこで本件特許発明の明細書中の右「3乃至5度F」なる記載を「3乃至5度C」に訂正することが前記法条第二項にいう「実質上特許請求範囲を変更するもの」に当るかどうかを検討する。

特許法第百二十六条第一項の規定が特許権者は願書に添附した明細書又は図面の誤記につきその訂正をすることについての審判を請求することができることとしたのは、特許発明について、発明をした者の内心の意思と明細書又た図面の記載による表示と間に錯誤がある場合に記載の訂正によつて内心の意思と表示とを合致させるとともに特許権者をしてその表示上のかしのため生ずるおそれのある不利益を免れさせることにあると考えられるが、他方特許発明の技術的範囲は、明細書中の特許請求の範囲の記載に基いて定めらるべきであり、かつまた審決による明細書の訂正は訂正後における明細書又は図面により特許出願、出願公告、特許すべき旨の査定または審決および特許権設定の登録がされたものとみなされる効果を有する結果、誤記の訂正はただちに第三者の利害に関するところから、同条第二項は誤記の訂正についても一定の制限を設け、訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものであつてはならないとして、表示を信頼する第三者の立場を保護したものと解される。右のとおり解すべき以上同項にいう「実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであつてはならない」とは、明細書の「特許請求の範囲」の項に記載された当該発明の構成に欠くことのできない事項について、訂正後の明細書又は図面の記載による表示によれば、その内容、ことに範囲、性質等を拡張または変更するにいたるような訂正をすることは、たとえそれが発明者の真意と表示との不一致を除去するためのものであつても、これを許さない趣旨と解すべきである。

本件特許発明「あられ菓子の製造法」において、明細書の「特許請求の範囲」の項に記載された第一工程中の餅生地の冷蔵温度が発明の構成に欠くことができない事項の一つであることは、成立に争いのない甲第一号証(本件特許公報)の記載、特にその「特許請求の範囲」の項の記載に徴して明らかである。そして「特許請求の範囲」の項その他に記載された右の冷蔵温度「3乃至5度F」はこれをC(摂氏温度)に換算すると約「マイナス16.1度乃至マイナス15.1度C」に相当し「3乃至5度C」との間に著しい差が存することは数値上明白である。そしてその成立に争いのない甲第八号証によれば、右の温度差がその後の工程を経た焼成品に著しい差異を及ぼすことが明らかであることおよび右第一工程における冷蔵温度が本件明細書の全文すなわち「発明の詳細なる説明」、「特許請求の範囲」の各項を通じて「3乃至5度F」と一貫して記載されていることとを考え合せれば、原告主張のようにこれを「3乃至5度C」と訂正することは、実質上本件特許請求の範囲を変更するものといわなければならない。原告は、本件明細書中の「発明の詳細なる説明」の項における本件発明の目的に関する個所等を指摘し、単に「特許請求の範囲」の項の記載のみならず、明細書の全文を検討すれば、本件訂正は実質上特許請求の範囲を変更するものではないこと明らかであると主張するけれども、原告指摘にかかる個所その他明細書の全文および甲第三号証から甲第八号証までによつては、本件特許発明の目的およびこれを達成するにつき原告所望の温度を必要とする理由ないし理論を窺知することができるに止まり、これによつて、明細書訂正の前後を通じ、当業者が容易に前記温度上の差異を無視し得るものとは到底解し難く、原告の主張は採用することができない。

また原告は訂正審判に関する特許庁における審決例を引用して主張するところがあるけれども、証拠に表われた限りにおいては、これらの審決例における具体的事案が本件におけるそれと同一であることは、これを認めることができないから、その当否はただちに本件における裁判所の判断を左右するものではなく、この点に関する原告の主張もまた理由がない。

三  右のとおりである以上、本件訂正は、実質上特許請求の範囲を変更するものとして、原告の請求を容れなかつた本件審決には原告主張の違法はなく、原告の本訴請求は失当として棄却すべきであり、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八十九条、第九十三条および第九十四条の規定を適用して主文のとおり判決する。

別紙

特許庁 特許出願公告

昭35-15831

34 J 111.2 特許公報

公告 昭35.10.21

出願 昭34.3.19

特願 昭34-3496

出願人 発明者 渡辺平吉

東京都豊島区西巣鴨2の2254

代理人 弁理士 奈良伊藤治

あられ菓子の製造方法

発明の詳細なる説明

本発明は長期間軟化黴生することなく軽く然も風味と栄養を具有するあられ菓子を提供しようとするものであつて,即ち常法により搗き上げた餅生地を所定の容器内に充填してこれを3乃至5度Fの冷気中に於て約3日間冷凍せしめ次で容器よりこの冷凍した餅生地を取出して各種形状に截断して小片としたものを一旦天日若しくは火力乾燥せしめた後,更にこれに短時間赤外線照射を加えて後焼成し然る後この焼成小片を攪拌しつゝ煮沸したサラダ油を噴霧し且つこの際適量の食塩と調味料を振りかけて最後に再び天日若しくは火力乾燥せしめて得ることを特徴とするあられ菓子の製造方法に関するものである。

周知のように従来のあられ菓子は餅生地を直ちに細片としてこれに醤油,食塩,食用油等を配合したものをその侭塗布滲潤せしめた後焼成したものであつた。

然るにこのような方法による製品は組織が粗硬であるのと塗布した醤油,食塩,食用油が内芯まで滲透しているので湿気を呼び易くこの為め時日を経ると軟化したり微生や腐敗し易い欠点があり,又その使用味付料と相俟つて風味悪く又栄養にも乏しい等栄養上,保存上,食用上の諸不利があつた。

本発明は叙上の諸不利を排除する為めに前記の如くに味付処理することにより栄養価高く且つ処理時の状態にて保存に耐え然も何時にても食用に好適するあられ菓子を得たものである。

即ち本発明に於て常法による搗き上げた餅生地を先ず約3乃至5度Fの冷気中に約70時間冷蔵することにより餅生地の組織は全体が均一に安定すると共に緻密となり且つ耐寒性を具有するに至り,従つて寒気による硬化及び餅肌に亀裂を生じないようになり,然してこの緻密均質化された餅生地を各種形状に截断し且つ一旦乾燥せしめた後これに短時間赤外線を照射することにより爾後常法による焼成の際生地の組織内芯部に火熱を充分に吸収して生地の外肌に過度の焼焦を生ずることなからしめると共に全体を均等に膨くらと焼成し頗る軽く焼き上げしめる効果をもたらすものである。

斯くしてこの焼上げられた小片に対しこれを攪拌しつゝ予め短時間煮沸したサラダ油を噴付けつつ少量の食塩と調味料を振りかけた後,再び天日若しくは人工乾燥せしめることによりこれらサラダ油,食塩及び調味料等はその栄養価を損じたり風味を低下することなくその侭生地の外肌部に附着乾燥するのであつて本製品は組織は均等緻密にして且つ硬化変形,亀裂を生ずることなく然も軽く焼上げられ保存性と食用に好適し栄養豊富にして風味に富む焼菓子を得たのである。

なお本発明に於て餅生地を予め約3乃至5度Fに於て冷蔵することは生地組織を適度に緻密化する為めであつて,従つてその冷蔵温度に於て上記以上の温度の場合は生地組織に締りを欠き且つ焼成時の膨みを阻害すると共に雑菌類を侵入し易く又上記温度以下の場合は組織が冷結して水分が過度に除かれるので截断し悪く且つ組織が破壊し易くなると共に焼成時膨み困難となるので本発明所期の効果を得られないものである。今本発明の実施例を下記すると先ず常法により搗き上げた餅生地を縦40cm,横30cm及び深さ8.1cmの枡形容器中に充填した後これを3乃至5度Fの冷気を保たしめた電気冷蔵庫内に約70時間収容した後容器と共に冷蔵庫より取出し,次でこの冷凍収縮した餅生地を取出して先ず縦29cm,横6.5cm厚さ0.5cmに大切りし次で更にこれを縦6cm,横2.3cm,厚さ0.5cmに小切りにした後,一旦天日又は火力乾燥したものを約5分間赤外線照射を行い次で常法により焼上げ然る後この焼上げた餅の小片を廻転ドラム中に於て攪拌せしめつゝ餅40kgに対し短時間煮沸したサラダ油0.27リットルを噴霧機により噴付けつゝ更に食塩80g及び少量の味の素を配合したものを振りかけした後ドラムより取出して天日若しくは人工乾燥せしめて完了する。

特許請求の範囲

常法により搗き上げた餅生地を規定の容器に充填して約3日間3乃至5度Fの冷気中に冷蔵する第一工程と,該冷凍餅生地を取出してこれを各種形状の小片に截断し且つ一旦乾燥後これに短時間赤外線を照射した後焼上げる第二工程と,この焼上げたものにこれを攪拌しつゝ予め短時間煮沸したサラダ油を噴付けつゝ食塩及び調味料を振りかけした後,再び乾燥せしめる第三工程との結合を特徴とするあられ菓子の製造方法。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例